若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
なんでタクシーに乗ったのを知っているのか眼差しで問われた気がして、私は俯き加減でぽつりぽつりと答えた。
「私もあの夜、同僚たちと近くの店で食べてたの。バス停で見送ってる時に、店から出てきた蓮さんの姿を見かけて、タクシーに乗り込んだところを見てたの。渡瀬先輩と一緒だった」
ふたりで去っていく光景を思い出すと、今でも胸が痛くなる。
蓮さんの腕の中から抜け出しリビングに戻って、「待って、誤解だ」と焦ったように追いかけてきた彼へと、バッグから取り出したものを突きつけた。
「これ、俺のネクタイだよな」
受け取ったネクタイを困惑気味に見つめながら、蓮さんが絞り出すように呟いた。
そっと手を伸ばして、蓮さんの腕を掴む。
本当は離れたくないという想いを込めて、蓮さんを見つめる。
「蓮さんは渡瀬先輩とひと晩一緒にいたんでしょ? みんな蓮さんと渡瀬先輩はお似合いだって言ってます。蓮さんだって、本音では私より渡瀬先輩が大切なんじゃ? それなら、やっぱ私たちは婚約破棄すべきだと……」
蓮さんの指先が私の唇に触れて、言葉は途切れた。
真剣な面持ちで真っ直ぐ私を見つめ返しながら、彼が首を横に振る。