若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
「……あ、いや。俺は良いよ。もう出る時間だから」
「そうですか、わかりました。頑張ってください」
暮らしてから共に食事をしたのは数えるほど。
私は自炊していて、好き勝手にキッチンを使わせてもらっているけれど、蓮さんは食事をほとんど外で済ませてくる。
「富谷、すまない」
「良いんです。気にしないでください」
最初に言った通り、彼はまさに寝に帰っているだけの状態。
ふたりで八津代の家や、お店に顔を出さないといけない時、彼は私を「里咲」と呼び、仲睦まじい婚約者を演じているが、その必要がない場合は「富谷」と苗字よびをする。
それはまるで私に勘違いするなと忠告しているみたいで、時々虚しくなってしまうほど。
そして家では、必要以上の接触を避けているんだろうなと思えることも多く、聞いてはみたものの私自身も食事を断られるだろうと予想していた。
だから、申し訳なさそうに響いた彼からの謝罪に、こちらが慌ててしまう。
私たちの間で数秒沈黙が続き、気まずさを感じながら朝食に誘わなければ良かったと後悔していると、蓮さんが袖口のボタンを止めつつ歩み寄ってくる。
カウンター越しにしっかりと目が合う。