若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
「不便だったり不都合なところはないか? 有ったら遠慮なく言ってくれ」
「いえ。これと言って……」
反射的に返事をしかけたが、最近よく考えるようになったことがあったのを思い出し、途中で言葉を途切らせた。
これを言ったら嫌がられるかもしれないと苦い気持ちを抱えつつ、私は勇気を持って口を開く。
「やっぱり、ひとつだけ良いですか? 掃除は私がやります。だからハウスキーパーに頼まなくても良いんじゃないかなと思うのですが」
二週間に一回、蓮さん宅にはハウスキーパーが入る。
忙しくて掃除が行き届かないため、彼がひとりで暮らしている時から頼んでいるのだけれど、今は私がいる。
私は実家の旅館の仕事を続けているけれど、夕方五時には仕事を終えて帰宅できるし、休みもしっかりもらっている。
むしろ実家暮らしの時より蓮さんと暮らし始めてからの方が残業しなくて済むようになり、時間も体力も余裕のある生活をしているため、しっかり掃除できると思うのだ。
「そこまでしてもらうのは気が引ける」
「昔から旅館での掃除を手伝っていましたし、掃除自体結構好きですから。それに、この家を汚しているのはほぼ私です。私ひとりでなんとかなります」