夜風のような君に恋をした
読む余裕なんてあるはずもなく、私はメッセージアプリを開こうともせずに、再びポケットにしまおうとした。

だけどふとあることに気づいて、手を止める。

衣のメッセージアプリで見た、”市ヶ谷”という文字が、頭の中によみがえったからだ。

市ヶ谷冬夜は五年前に亡くなっていた。

じゃあ、芽衣がつき合っている、冬夜にそっくりなK高の彼は誰?

――『親と口きかないから、弟に心配されてるくらいだ』

そして私は冬夜のそんなセリフを思い出して、弾かれたように顔を上げた。
< 173 / 232 >

この作品をシェア

pagetop