夜風のような君に恋をした

四校時目が終わって昼休憩に入ってすぐ、私は席を立つと芽衣の席に向かった。

鞄からお弁当の袋を取り出そうとしていた芽衣が、私を見て驚いた顔をする。

「雨月ちゃん、どうしたの? そっちから来てくれるなんて珍しい!」

今日も綿あめのようにかわいらしく笑って、うれしそうにはしゃぐ芽衣。

「あのね、大事な話があるの。ここじゃ話せないから、ちょっといいかな」

「え? あ、うん、いいよ」

今までにない私の雰囲気に戸惑いを見せたものの、芽衣は素直に従ってくれた。

たどり着いたのは、校舎裏にある、自転車置き場のさらに奥。

フェンスの前に銀杏の木が生い茂っているだけのこの場所は、この時間閑散としていて、深刻な話を誰かに聞かれる心配が少ない。

「あのね、急な話で変に思うかもしれないけど、芽衣の彼氏の名前を教えて欲しいの」

「え? うん。市ヶ谷くんだけど……。前に言わなかったっけ?」

戸惑いつつも、明るく答えてくれる芽衣。

「うん、上の名前は聞いてる。下の名前はなんて言うの?」

「宵くん。夜の“宵”って字を書いて、“しょう”って読むの。でも、それがどうかした?」

筋の見えない話に不安を覚えたのか、さすがに勘繰るように芽衣が聞いてきた。
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