廃屋の捨てられ姫は、敵国のワケあり公爵家で予想外に愛されています
「ははっ。こちらは行政区用の待合所ですからね。行政区はほとんどが往診でここには人がいないのです。本来ならエスカーダ邸にも往診に行くところなのですが、検査の機材は持ち運びが出来ませんので……」

「そうなのね。トマスがヤブ医者でないとわかって安心だわ」

「これは手痛い切り返し。カトレア様がお元気な証拠ですな」

トマスは高らかに笑った。
おばあ様とトマスは、昔からこのような掛け合いをする関係なのだろう。
だとすると、おばあ様が悲嘆に暮れ、エスカーダ領で引き込もってしまってかなり心配したはずだ。
何通もの手紙が屋敷に届いていたことがそれを物語っている。

「ルキア様?」

「えっ、あ、はい。何でしょうか?」

思案していると、突然トマスが振り返った。

「実はうちの下の息子がルキア様と年が近いのです。ですから、カトレア様の診察の間、宜しければ話相手にどうかと思いまして」

「まぁ、それは嬉しいです!でも、ご迷惑ではないですか?」

いくら歳が近いとはいえ、いきなり子守りをしろなんて嫌じゃないの?
でも、公爵家縁の者だから、邪険には出来ない。
そんな風に気を使わせてしまうくらいなら、一人でぼーっとしている方がマシである。

「迷惑だなんて思いませんよ!息子は気さくなやつで、ルキア様のことを語って聞かせると、会うのが楽しみだと言っておりました」

「そ、そうなのですか?大変だわ、幻滅しなければいいですけど」

「するもんですか!」

トマスは目尻を下げた。
ふんわりと穏やかな笑顔に私の緊張は解ける。
この人の息子ならきっと、いい人に違いないわ!
と、思った途端、おばあ様が口を開いた。
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