堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 廃倉庫の周囲は、すでに第一騎士団で囲まれていた。
 ジルベルトがグリフィン公爵を拘束し、ダニエルがその部下二人、エレオノーラに扮していたウェンディが部下一人、そしてマリーに扮していたエレオノーラが部下一人を拘束して、彼らを第一騎士団に引き渡した。

「グリフィン公爵。あなたには、薬の密売と誘拐の罪がかけられています」

 ジルベルトはうなだれるグリフィン公爵に声をかけた。

「ジルベルト殿。貴殿が今日を共に過ごした女性は、婚約者ではなかった、ということか?」

「いえ。私は彼女と共に過ごしました」
 その言葉にグリフィン公爵は顔をあげ、ジルベルトを見た。

「だったら、なぜ? いつ入れ替わったんだ?」

「劇場です。帰りの馬車に乗る前」
 そう、劇場ではエレオノーラと共に時間を過ごし、そしてその劇場でエレオノーラとウェンディが入れ替わった。ジルベルトは、エレオノーラに変装したウェンディと共に帰りの馬車に乗ったのだ。
 肝心のエレオノーラはそこから急いでマリーに変装し、グリフィン公爵と合流する。

「そうか。だからお前たちは騎士としてここに来ることができたのか」
 グリフィン公爵は「今回の私の敗因は、マリーという女性に溺れてしまったことだな」と、小さく呟く。

「そのようですね。ですが、彼女は素敵な女性です。あなたが夢中になっても仕方ない」

 ジルベルトは目を細めて、そう言った。
< 220 / 528 >

この作品をシェア

pagetop