溺愛結婚は突然に〜ホテル王から注がれる、溢れるほどの愛〜



「……じゃあ、見つけてくるわよ」


「え?」


「見つけてくれば良いんでしょう!?その相手を!」


「く、紅葉……だから、今から」


「嫌よ!私は好きな人と結婚したいの!その人とは会わないわ!」



そんな捨て台詞を吐いて、私はその場から逃げるように駆け出した。



「紅葉!」


「紅葉待って!」



両親の引き止める声を無視して、ピンヒールでホテルの中を走る。


階段も構わずに走って走って、息が切れても尚走って。


辿り着いた先が、一階にあるカジノの入り口だったのだ。


そういえば、年齢的には私もカジノに入れるんだった。現金はそこまで入っていないものの、大金を賭けたりしない限り大丈夫だろう。


人も多いし、ここでならしばらく隠れていられるかもしれない。ここで少し頭を冷やそう。


そんな安易な理由で中に入り、入り口でパスポートを提示してからカジノの中を恐る恐る進む。


とりあえず奥に行こう。お父様もお母様も、まさか私がカジノに逃げ込んだなんて思わないだろうし。


しかし歩いているだけだと逆に目立ってしまうため、誰も座っていないバカラのテーブルを見つけてとりあえずそこに腰掛けた。



「Change, please(チップに変えてもらえますか)」



バカラの遊び方は、カジノが大好きなお祖父様に昔教えてもらったことがある。


バンカーとプレイヤー、どちらが勝つか予想して賭けるだけの簡単なゲームだ。


最低料金が25ドルと書いてあるのを見て、財布からお金を出してディーラーに渡した。


そうしてパーティーに参加することなく逃亡した私は、お酒を飲みながら人生初めてのカジノで時間を潰していたのだった。

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