溺愛結婚は突然に〜ホテル王から注がれる、溢れるほどの愛〜
おそらく、お父様の秘書の日暮さんだろう。
私が逃げ出すなんて初めてだから、多分必死に探しているんだ。
いずれは必ず見つかる。ずっと逃げられるなんてもちろん私も思っていない。でも、今見つかってしまったらここまで逃げて来た意味が無い。
きっとすぐにでも会場に連れ戻されて、そのどこぞの子息を紹介されて婚約者にされてしまう。
嫌だ。それだけは避けたい。
でも、この男についていって本当に大丈夫なのだろうか。
返事を迷っていると、
「ま、君に選択肢は無いんだけど」
と嬉しそうに私の腕を掴んだまま逆方向に歩き始めた。
「え!?」
当たり前に私の身体も逆方向に歩みを進み始めることになり、慌てて足を動かす。
「ちょっ、と、なに!?どこ行くんですか!」
「んー?だから言っただろ。"良いところ"」
それがどこかを聞いているのに!
答えをくれない彼はカジノの入口とは違う方向に進んで行き、どこを通ったのかよくわからないままいつのまにか一つのエリアの前にいた。
着いた先は、同じカジノのようだった。
「……なに、ここ」
しかし違う点があるとすれば。
今までいた明るいカジノとは違う、間接照明の明かりだけで照らされた、なんとも言えぬ怪しげでムードのある雰囲気。
「……なにあれ、あれ全部ブラックジャックに賭けてるの……!?」
「そうだよ。ここはそういう場所」
チラリと見えたテーブルでは、100ドルのチップが山積みになっている。
私がついさっき使っていた10ドルのチップとは比べものにならないほどの金額が動いているのが素人目に見てもわかる。