溺愛結婚は突然に〜ホテル王から注がれる、溢れるほどの愛〜
「あら、良いですね。そのまま笑っててください」
日本人のヘアメイクの方にそう言われ、口角を上げたままにしていると唇の中央に細かいラメが少し乗る。
「元のお顔立ちが華やかだから私の出番はほとんどありませんでした」
嬉しそうに笑った女性に謙遜しながらお礼を告げると、控室の扉が浅くノックされる。
「どうぞ」
「……紅葉?」
ヘアメイクさんと入れ替わりに入ってきた優吾さんは、鏡の前から動かない私を見たのかゆっくりとこちらに近付いてくる。
私はと言えば、自分の姿を眺めてこれから本当に結婚するんだ、と信じられない気持ちでそこから目が離せなかった。
すると、後ろから鏡の中に優吾さんの姿が映り込んで。
鏡越しに私の姿を見た優吾さんが、大きく目を見開く。
「……綺麗だ」
ぽつりと呟いた声に、ゆっくりと後ろを振り向く。
「……紅葉」
「優吾さん。……タキシード姿、とても素敵です」
ライトグレーのタキシード姿が眩しい。
いつものスーツ姿とはまた違い、今日は一段と華やかだ。
こんなにも素敵でかっこいい人の隣を、これからは妻として歩くことになる。
プロポーズからちょうど一年。優吾さんと出会う前は、こんなに幸せな結婚式を迎えることができるなんて夢にも思わなかった。