夜が明けぬなら、いっそ。
真顔で言ってみると、差し出された右手がどこか可哀想にも思えてしまった。
「…そう、握手」と、景秀は諦めたように言いながらも私の手を掴んで引っ張った。
「よし、行こう」
「おい、握手じゃないのか」
「これが俺なりの握手なのさ」
……また都合の良いことを。
ぎゅっと握られた右手と左手。
迷子にならないように繋ぐ幼子のように、けれど嫌な気はしなかった。
「…思った以上に賑わっているな」
「だねぇ。どこか寄っていく?」
「あぁ、伊佐の情報をどうにかしてでも貰わなければならない」
なんとか辿り着いた常陸国。
賑わう商店街に似合わない顔をした景秀は、それでも反論はしなかった。
こいつは私が伊佐に会って仇を探し出し、全てを終わらすまでの一部始終に付き合うつもりなのだろうか。
刀を捨てろと言ったり、そのわりにはこうして一緒に歩いたり、よく分からない男だ。
「少し聞きたいんだが、この辺りに伊佐という名の水戸藩の者は知らないか」
「あぁ今はそれどころじゃないんだ…!帰った帰った!!」