オトメは温和に愛されたい
 突っ伏した状態のまま、ちらりと盗み見た温和(はるまさ)は、一応私への配慮からか、そっぽを向いてくれていて……。
 そういうところは、昔と変わらず優しいな、と思ってしまう。

「待ってろ、バカ音芽(おとめ)
 わざわざ私の名前に「バカ」とつけてそう言い置くと、温和(はるまさ)が浴室を出て行った。

 私は彼の立ち去る気配を顔を伏せたままで感じながら、膝が水に濡れてズキズキと痛むのに顔をしかめる。

「あーん、もうっ。痛いし寒いし恥ずかしいしっ、最悪っ!」

 温和(はるまさ)がそばにいないのをいいことに、吐き出すように弱音を吐いてみる。

 もしこれが、妹同然の私じゃない女性とだったなら、温和(はるまさ)はこんな状態の異性に対してどんな対応をするんだろう。

 もしかしたらエッチな気分になって、思わず手を伸ばしてしまったりとか……そんなことになったりするの、かな。
 勝手に想像して、勝手に悔しくなった。

温和(はるまさ)のバカぁ。私にだって……少しはときめいてよ……」

 現状で温和(はるまさ)を異性と認識するのが恥ずかしくて、わざと「ハル(にい)」と連呼しまくりで線引きをしておいて、そんなことを思う。

 私の方こそズルイ――よね。
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