逆プロポーズした恋の顛末


まっすぐに気持ちをぶつけてくる尽に、適当に応えるわけにはいかなかった。


「これからのこと……アパートに帰ってから話してもいい? 運転しながら話すようなことじゃないし」

「……ああ」


尽は、何か言いたげな表情をしていたものの、頷いた。

車内に重苦しい沈黙が漂ったまま、車を走らせる。
アパートに到着すると、尽が幸生を抱いて運んでくれた。

準備してあった布団に幸生を寝かせ、ひと言「風呂に入る」と呟いてバスルームへ消える。


(たぶん、晩ごはんをまともに食べる時間はなかったわよね。時間も時間だし、あっさりしたものの方がいいかな……)


貰い物の讃岐うどんがあったことを思い出し、シンプルな釜玉うどんにしようと決めた。
薬味などは冷凍したものがあるし、だし醤油を作って、麺をゆでるだけでいいから時間もかからない。

とりあえず、尽の気持ちを少しでも和らげてから、続きを話した方がいいだろう。

いつものごとく、短時間で入浴を終え、リビングに戻ってきた尽は、テーブルの上のうどんを見て目を見開いた。


「お腹、空いてるでしょ?」

「…………」


無言でコクリと頷く仕草が幸生を思わせ、つい笑ってしまった。
尽は、そんなわたしを眉根を寄せて睨む。

その顔もまた、絵本を読むのは「パパ」じゃなきゃイヤだと言っていた幸生にそっくりだ。


(卵が先か、ニワトリが先かって話になるけど……こんなに幸生とそっくりなんだもの。何があっても、尽を嫌いになんかなれないわ)

「先に食べて。話はそれから」


尽がうどんを食べている間に、もう耳に入っているだろうとは思いつつも、山岡さんへタケさんのこと、尽を無事連れ帰ったことをメッセージアプリで報告する。

山岡さんから、「おつかれさま」とスタンプが送られて来たタイミングで、所長からのメッセージが届いていることに気がついた。


『明日の夕方頃に帰るよ。尽の最後の晩餐は、うちで「すきやき」にしよう。高級黒毛和牛と取れたて新鮮な卵も買っていくから』


(すきやきって……)


尽に別れ話をした日と同じメニューだった。


(偶然だとわかっていても、「すきやき」がトラウマになりそう……)

「尽、所長が明日は『すきやき』にしようですって。黒毛和牛買って来てくれるみたい」

「さっき、タケさんのことを報告した時に聞いた。明日は、戻りがてら、病院に寄ってタケさんを見舞うと言っていた」

「タケさん、娘さんだけでなく所長にも怒られるわね」

「だろうな」

「明日は、わたしたちも所長の家に泊まるわ。尽を見送るのは……たぶん、ここからじゃない方がいいと思うし」


所長が一緒にいてくれた方が、幸生の辛さや寂しさも多少は和らぐだろう。

< 121 / 275 >

この作品をシェア

pagetop