逆プロポーズした恋の顛末
「ママも、幸生が大好きよ。だから……ちょっと、鼻水拭こうか」
振り返って箱ティッシュを渡すと、幸生は箱に描かれたものを見て、ふにゃりと笑った。
「……アザラシだ」
「英語では?」
尽の問いに、幸生がすかさず叫ぶ。
「seal!」
「じゃあ、イルカは?」
「dolphin!」
「お、ちゃんと勉強したんだな?」
「そうだよ! 水族館には、シャチもいるんだよね? おうちで食べるお魚たちもいるよね? メダカとか、触ったりできる?」
「触れるかどうかは行ってみないとわからないが、食べられる魚もたくさんいるぞ」
「おっきな水槽に、いろんな魚がいるんだよね?」
「仲良しの魚同士はそうだけど、ひとりでいる魚もいるぞ」
「ふうん? じゃあ……」
幸生は、さっき泣いていたのが嘘のようにすっかり調子を取り戻し、尽を質問攻めにしていたが、ほどなくして尽のマンションに着いて、おしゃべりは一旦終了。
マンションは立見総合病院のすぐそばにあり、急な呼び出しにも駆けつけられるよう、同僚の医師たちも近隣に住んでいる人が多いという。
「パパのおうち、大きいね?」
「全部がパパのうちじゃないんだ。幸生とママが住んでいるアパートみたいなもので……」
「ほかの人も住んでるの?」
「そうだ」
地下の駐車場から、各部屋直通のエレベーターで向かったのは五階。
低層マンションなので、五階が最上階だ。
ワンフロアに二部屋の造りで、2LDKといってもリビングは十帖以上あり、キッチンスペースも広い。
しかも、リビングから出られるバルコニーは、「庭」になっていた。
「ママ! お庭があるよ! パパ、お花も咲くの?」
「花が咲く種類はあまりないが、食べられる」
「この葉っぱ、食べられるの?」
「ハーブというんだ。昔から、薬代わりに使われたりしている葉っぱだ。小さな木は、ブルーベリー、レモン、ラズベリーで、実が食べられる」
「「すごーい!」」