逆プロポーズした恋の顛末
ハッとして時計を見やり、愕然とする。
(えっ! もうこんな時間っ!?)
時計を見れば、いつの間にか十時になっていた。
『こんにちは、午来です。お迎えにあがりました』
「は、はい、あの、すみません、ちょっと……ちょーっとだけ待ってもらえますかっ!?」
慌ててインターフォン越しに叫ぶと、午来弁護士はこちらの状況を察したらしく、くすくす笑いながら紳士な申し出をしてくれる。
『何かお手伝いしましょうか? 荷物もあるでしょう?』
「だ、大丈夫です! あの、十五分……十分で下りますので!」
『約束の時間まで、余裕は十分あります。ごゆっくりいらしてください。エントランスで、お待ちしています』
「すみません……幸生! 急いで準備しなきゃ! 荷物はママが詰めるから、トイレ!」
「はーい……」
幸生が出してきたものを手当たり次第にリュックサックへ放り込み、トイレの前で、歌を歌いながらのんびり用を足している幸生をジリジリしながら待つ。
フラッシュの音がし、ドアを開けた幸生が「ママ、いっぱいでたよー! あのねぇ……」と詳細を説明しようとするのを「うん、うん、たくさん出てよかったねー」と遮って、帽子を被らせる。
二人分の上着と鞄を掴み、財布とスマホが入っていることを確認し、やや散らかっている部屋をぐるりと見回して……「帰って来てから片付けよう」と諦める。
「ママ、誰がお迎えに来たの?」
「パパのお友だちで、弁護士さんの午来さんよ」
「べんごしって、なにするひと?」
(弁護士は何をする人かって? 説明するのが難しい……)
上手く説明できる気がしなかったので、丸投げすることにした。
「午来さんに訊いてみたら?」
「うん!」
弁護士なのだから、言葉で相手を納得させるのはお手のものだろう。
三歳児を相手にしたことがあるかどうかは、わからないが。