逆プロポーズした恋の顛末
「……ごめん、彼は何人かしら?」
直截的な表現も、外国人なら理解できる……と思ったが、千陽ちゃんの答えはちがった。
「日本人ですが」
「酔ってた?」
「いいえ、まったく」
「……写真ある?」
「はい。わたしが撮ったわけではないですけれど……」
そう言いながら、彼女がスマホの画面に映し出したのは……毎年、抱かれたい男ランキングで上位に入るミドルエイジの男性俳優。ちなみにバツが四つは付いていたはずで、すべての離婚の原因は彼の浮気。週刊誌のネタではなく、れっきとした事実だ。
何を隠そう、彼が売れない俳優だった頃に結婚し、支えていたのが『Fortuna』のママだった。
売れ出した途端、次々と若い女優と浮気を繰り返し、挙げ句の果てに相手を妊娠させてママを捨てた、そのロクデナシぶりはよく知っている。
「千陽ちゃん。返事をすれば、かえって勘違いさせかねないから、無視で。いままでと変わらぬ一線も二線も引いたお付き合いをしなさい」
「からかわれたんでしょうか?」
「ええ。質の悪い冗談だと思うわ」
(からかわれたんじゃなく、口説かれたんだけどね)
「やっぱりそうでしたか。あんなステキな人が、本気でわたしに言い寄るはずがないですよね」
(かなり本気だったと思うけどね。シラフでそんなアホなこと言い出すくらいだしね!)
しょんぼりする千陽ちゃんに、そんなことはないと言ってあげたいが、相手はロクデナシ。
箱入り娘の彼女が衝撃のあまり、男性不信になっても困る。
「わたしって……やっぱり、女性としての魅力に欠けるんでしょうね」
「えっ!?」
「コウくんも、二人きりで、同じ部屋でお泊まりしても、キスもしてくれないし。一緒にジャグジーに入っても、懐かしいね! なんて言ってアヒルのおもちゃで遊ぶくらいだし……」
(お、同じ部屋っ!? 一緒にジャグジーっ!? アヒルっ!? 幸生、嫁入り前の娘さんにそこまでさせるなんて……)
息子のあまりの鈍感さとあり得ない仕打ちに、めまいがする。
「コウくん、わたしのこと女だと思ってないんですよね……たぶん」
はらり、と涙をこぼす千陽ちゃんは、儚げで、いじらしくて、可愛くて、わたしが男ならこの場で押し倒し、襲ったかもしれないと思う。
こんな彼女の色香にビクともしない幸生のオスの本能を疑った。
(あの子……まさか、魚類にしか愛情を抱けないとか言わないわよね?)