赤い雫のワルツ
「え……」
「私もずっとカレロアをこうして抱きしめたかったのに、随分と臆病になってしまった私のせいで遅くなってしまったね」
耳元で囁かれる、僅かに震えたご主人様の声は、優しくてどこか擽ったい。
でも……とても心地よい。
「君をここへ連れてきたあの日。どうしても、守りたいものが、私の中で出来てしまったんだ」
あの日も、こんな満月の夜だった。
祖母の家に遊びに行っていた帰り道、私はご主人様に出会った。
襲われる恐怖をかき消すように、私達はここでワルツを踊って過ごした。
あの時間の中で、私の中にあった何かに電撃が走るのと同時に花が咲き、今も尚その花は綺麗に咲き誇っている。
水を与え、土に肥料を撒くのと同じように、ご主人様と過ごす時間の些細な幸せを感じながら、花は成長していった。
「私の正体を知りながらも恐れることなく、私の傍に居てくれる、一人の人間の女性に……私は心を奪われたんだよ」
「ご主人様……私――」
言葉を続けるよりも先に、その唇を奪われた。