赤い雫のワルツ




 ほんの僅かに冷たい唇だというのに、温もりがゆっくりと私の中へと入ってくる。



 何とも言い難い、幸せの味を噛み締めながらいると、そっと唇が離れていく。




「君に……カレロアに、私は心を奪われてしまったんだ。吸血鬼という存在が、人間に恋をしてしまったんだよ」




 ご主人様は何かを噛み締めるように、少しだけ苦しそうに笑って見せた。


「血を啜ったら、私の記憶は消えてしまう。出会った事も忘れて、君は元の生活に戻ってしまう。そんな耐え難い事、私には無理だった。だったら、いっその事、ここに置いて傍に居てもらえばいい。そう思って、君を私専属のメイドにしたんだ」


「だからと言って、私に触れてこないのはどうしてですか」


「好きな女性に、気安く触れると思うか。ただでさえ人間は脆いのに、綺麗な君を壊したくはなかったんだ。どう触れればいいのかを、模索するのに街の娘を使って練習していたんだぞ」




 どこまでもヘタレなご主人様なのだろうか、この人は。







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