赤い雫のワルツ
私が今までどれだけ触れて欲しいと願っていたことか、この人は知りもしないんだ。
ようやく分かった自分の気持ちに、もう迷いはない。
臆病な最恐と言われる、この吸血鬼に私は今までの分を求めるように、ご主人様の首に腕を回した。
「私は簡単に壊れません。他の女性で練習なんて嫌です。目の前にこうしている私に、全てをください」
「随分と大胆な人だね、君は」
「ご主人様が臆病すぎるだけです」
私から唇を奪いに行こうとしたけれど、ご主人様は一歩先に私の唇を奪いにやって来た。
熱く唇を重ねながら、壊れ物を壊さぬように優しくご主人様は私の頭を撫でた。
その温もりでは足りなくて、私はもっと欲しいとご主人様にせがむ。
「君は吸血鬼のように貪欲なようだね」
「だって、私の好きな人が吸血鬼ですから。そうやって求めないと、割に合わないでしょう?」
「――君は本当にズルい。君の血が欲しいと思ってしまう程に、気が狂いそうだ」
「私の極上の血、飲んでください。好きな人の事を、忘れるわけないじゃないですか」
だから、私の血で溺れてほしい。
首元を差し出すと、ご主人様の二本の長い牙が月明かりに怪しく輝いた。