マエノスベテ

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 時おり人々のねちっこい視線は感じたもののどうにか店から出ると、駐輪場の近くが、ニコラ・プーサン『ディオニューソスの誕生』みたいになっていた。
「……うーん」

警備員に絡む、若者たちがたむろして出来た美しい光景だった。背後は丁度山がそびえているので尚更そう感じたのかもしれない。
彼女の姿は見えなかった。
マエノスベテを取り押さえるのは失敗だったが少なくとも、収穫はあった。写真を撮ったのは誰かという問題もありはしたが、ウシさんは彼らに協力を惜しまないことは見えてきた。

「こりゃあ、少なくともサンダースじゃあ、ないだろうね」

彼が、マニアックなことを言った。
「なるほど、プーサン的だ。確かに、これはプーサンだ……」

そして、続けて一人クスクス笑う。

「プーサンってちょっとシャフトっぽくないかな?」

「そうだろうか。それだと、逆だろ」

特に、意味のない会話だった。サンダースの話や革命をしている場合ではないのだが、正直、追っ手が尋常じゃないし、周りは駐車スペースで見張らしがいいが足場はないから逃げにくいし、混乱極まるばかりである。本当に、ぼくらも店の周りをぐるぐる回ることとなった。
彼女はどこに居るのだろう。

「あんな風に、計算と冷静さに線を引いて、図としての精密さが僕も憧れるところだよ」

「サンダースの話か?」

「どちらかというと、ニコラかな。ところでなんだが、僕は面白いことを常々考えたい性分なんだ」
「それで?」

「こういうときに、夜までに家に帰れなくなるっていうのは実に許しがたいんでね。

女装から聞いた情報である炒めチャーハンドラゴン部隊や、その周りについて考えを落ち着けようと思ったわけだよ。つまりこの街を乗っ取っているひとつであり、恐らくは櫻さんとも繋がっているからこそ、ウシさんはあのニュースを気にして、僕を気にしている。ここまでは分かるんだ、僕らはウシさんの怒りが何に由来するかを探して来た、きみにも薄々飲み込めてきただろう」
2019/06/22 12:31
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 ぼくらが何回目かに、ぐるぐると回っているときだった。
彼女が居た。
 屋根付きのすでに車でいっぱいな駐車場を『あえて』通っていたということに視点を変えたとき気がついた。

「確かに、すでに車でいっぱいだから、車や自転車には追えないし此処はカメラが囲んでいる。人の死角も作りやすい」

彼が納得しながら言った。
ぼくもそちらに向かう。
彼女の戦いにねぎらいを込めて手を振る。

助けてもらおうとか、こいつが居ればなんとかなるとか、自分の身を自分で守る考えがない人間は、此処じゃ生き延びられない。そういった他力本願には真っ先に失格の烙印を押される。しかし、彼女はぼくらを呼びはしたものの、それは自分で戦うためであって力にすがるためなんかじゃない。


――こんな相手は、ずいぶん久しぶりだ。

「ははっ」

笑みがこぼれてくる。

「きみは、いい人だね。気に入ったよ。
ぼくは人間を気に入ることはほとんどないんだ。みんなワガママで、自分の為に相手を食い潰すことを、平気で「友情」だの「恋人」だの、吐き気がするからね。きみは違うみたいだ」

彼女は、こちらに気がついて手を振りかえす。

「今言うのもなんだけど、
友達になってくれたら嬉しいな」


「私ですか? 勿論ですわ」

彼女は、少し額に汗をかきつつも、疲労にふらつきながらも前を見据えた笑顔で、うなずいた。

2019/06/22 13:04
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