マエノスベテ

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 彼が、何か言おうとしたところだった。
おばさんはふいに、そういえばとぼくを指差した。

「あんたは決まったの、相手?」
「……」

「あぁ、もちろん生きてる人間だからね?」

なんてイヤガラセだ。
それを言われると二の句が継げない。高音にはならないが。
 おばさんは、なぜかぼくを生きている相手とばかり付き合わせようと画策するところがある。
彼、は何も言わなかった。
ぼくが、本当の意味でいったいなぜ生きていない相手を愛しているのか、昔どんな事件があったか知っていても、あえてそれで庇うような無様なことをしなかった。
リビングを見渡すと、昔流行ったキユーピー人形に個性的なビーズドレスが着せられたものがケースに入って展示されているのが見えた。
服の下に、小さな羽があるのだがそれは見えそうにない。
……キユーピーさんは、対象とかとは違う、神聖な何かかな、などとよくわからないことを思ってみる。

「一度、決まったことがあるじゃないですか」

頭の片隅で、よしなしごとをごちゃごちゃ思いつつ、ぼくは言う。
「一度、確かに決まってたのに……」

誘拐されて、見下されて、リンチに合って、穢れて、汚れて、跡形もないくらい殴られて、跡形もないくらい、焼かれて、存在できないくらいに叫ばれて――
「ぼくと付き合う人間が、幸せになることはないし」

ただの人間だった場合、どんな目に合わされどんな風になるのかも、

「どうにもならなかったじゃないですか、あのときも」

やっと守れたと思った。やっと、逃げ出せるんだって、ようやく幸せを分けてあげられると、過信していた。
もう暗い場所に居ないですむんだと、そのために耐えてきたのだと思い込んでいたけれど、そんなわけはなかったし、ぼくが『生きる』ことが、許されるわけはなかった。
相手は居ない間に拉致され、監禁されて、ぼくに恨みや妬み、利用を画策していた沢山の人間が、殺した。ぼくの身体が、この耳が、どんな価値を持つのかを、知っていたからだった。

「死んだ方が、マシなのに」


「でも、そんな、過去のことでしょう? まだ先はあるんだから」
とおばさんは励ましてくれた。これは本当の理由、というよりは3番目の理由だ。けれど、1つだけでも充分他人は引いてしまうから他は言わなかった。

「そうですけど。
はっきり決まったことを変えるって、なんていうか、消化できないというか……」


妬みの大半は、想像力の欠如だ。
消化不良もそのせいかもしれない。納得するような理由すらなかった。

2019/06/28 09:27
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