ディープ・アフェクション
フォークとナイフが入っている容器を持ったまま、パンケーキを無言で見つめる。
「あ、もし多かったら全然残していいから」
「……」
「でも女の子ってこういうの好きだし、ぺろりと食べれるでしょ?」
その通り、大半の女の子はこういう甘いものが好きだと思う。
でも、私は苦手だ。
甘いもの全般が苦手だし、何よりもその中で生クリームが一番苦手だ。更に言うなら苺もあんまり好きじゃない。
でも今ここでそれを言うわけにはいかない。よく馬鹿だアホだと言われる私でも、それは分かった。
先輩は何も私を嫌がらそうとしているわけじゃない。むしろその逆だ。私を喜ばそうとしてくれている。
つまり先輩の目にはきっと私はこういう甘いものを笑顔で食べてくれる女の子として映っているわけで。
生クリームを掬って口の中に運ぶ度に、その事実に目眩がしそうだった。
だってそんなの、これから先ずっと私はそういう女の子で居なきゃいけないんだって言われてるみたいだった。そうしなきゃ価値がないんじゃないかとすら思ってしまった。
頭の中はもやもやしているのに、口の中はどこまでも甘ったるくて、正直吐きそうだった。
そんな私に先輩はにっこり笑って「美味しい?」と尋ねてくるから、引き攣りそうな頬を必死に持ち上げて「美味しいです」と答えた。
笑顔を浮かべながら、さらりと嘘を吐く自分に、吐き気はひどくなる一方だった。
私がおやつを食べる時に選ぶのはいつもスルメとかジャーキーとかばっかりで、皇明には「臭い」って何回 怒られたか分からない。
でも、結局 最後には皇明も一緒に食べてたっけ。
私は皇明と居る時、すごく気が楽だった。
吐き気を催す事なんて一度もなかったし、笑顔で嘘を吐いた事も勿論ないし、顔が引き攣りそうになった事もない。
でもそれは、皇明がそうしてくれていたのかもしれない。
私が私らしく居られるように、皇明が何度も受け入れて、許してくれていたのかもしれない。
私が楽だった分だけ、皇明は私に気を使っていたんだろうか。
そう思うと、胸の辺りがギュッとなって、フォークを持つ手に無意識のうちに力が篭もる。
「……」
ああ、なんか。
皇明に、会いたい。