ディープ・アフェクション
多分、時間にすると一瞬だった。
微かなリップ音を立ててすぐに離れていったそれを、無意味に見つめてしまう。
「またね」
弧を描いた唇がそんな言葉を吐き出したから、ボケーッとしたまま「はい」と頷くしか無かった。
今度こそ踵を返して歩き出した先輩の背中を見送りながら、キスってあんな感じなのか…と、やけに冷静な頭の隅でそんな事を思った。
もっとドキドキしたり緊張したりするものかと思ったけれど、全くだった。
いきなりすぎて意表を突かれたから?
ていうか、あんな風に流れるような動作でするものなの?
頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされる中、どんどん遠ざかる先輩が角を曲がった。
まるで姿が見えなくなるのを待ちわびていたように、すぐに口元を手の甲でごし、と拭う。
「……」
この、なんとも言えない気持ち悪さは、さっき食べたパンケーキのせいなんだろうか。
そんな疑問が頭を過ぎった時、カサ、と袋が擦れるような音が微かに響いた。
その音に反応して顔を向ければ電柱の向こうに見慣れたシルエットを見つけて、目を白黒させてしまう。
「…皇明?」
ぽつり、と。
その名前が口からこぼれ落ちた。