ディープ・アフェクション
ゆっくりとこっちに歩みを進めてきているのは間違いなく皇明だった。
さっき会いたいと思っていたからか、皇明がいきなり姿を現した事に、自分でも分かりやすいくらいにテンションが上がっていくのを感じた。
「皇明じゃん!こんな時間にどうしたの?バイトは?」
「…バイトは休み」
パタパタと駆け寄り、興奮気味にそう問いかけた私に皇明は相変わらずの仏頂面でそう答えてから、片手に提げていたビニール袋を私に差し出した。
不思議に思いながらもそれを受け取り、中身を確認した私は大きな声を上げた。
「わ!これ新刊じゃん!」
それは私が毎月楽しみにしていた青年漫画の最新刊だった。そう言えば今日が発売日だったかもしれないと思い出しながら顔を上げる。
「皇明もう読んだ?」
「いや、まだ」
首を横に振った皇明はすぐに「後でいい」と言葉を付け足したから、咄嗟に口を開く。
「え!それはさすがに悪いよ!あ、今日バイト休みなんだよね?じゃあ今から私の家で一緒に──」
そこまで言って、ハッとする。
目の前の皇明は案の定、眉根を寄せていて、その表情は私が間違った発言をしたのだと悟らせるには十分なものだった。
「あー…ごめん。そういうのダメなんだったっけ。つい、いつもの癖で誘っちゃった」
「……」
あはは、と乾いた笑みを貼り付けた私を皇明は眉を寄せたまま何も言わずにじっと見つめてくるから、余計に居心地が悪かった。
「では、お言葉に甘えてお先に読ませて頂きます」
「……」
カサリと音を立ててビニール袋を顔の位置まで持ち上げた私に、皇明はムッとした表情のまま一度ちいさく頷いた。
微かに漂う気まずさを掻き消すように笑みを浮かべて「じゃあ」と踵を返そうとした、その時。
それを制すように、ぐっと後方に力が加わった。
視線を落とした先、皇明の大きな手が私の腕をがしりと掴んでいるのが見えて、その逞しい腕を辿れば、さっきと変わらずにムッとした顔で私を見下ろす皇明と目がかち合った。
「皇明、どう」
「お前、好きなの」
“どうしたの”と問おうとした私の声に、皇明の無機質な声が被さる。思わず「え?」と間抜け声を出せば皇明は私の腕を掴む手に微かに力を込めた。
「あの3年のこと、好きなのかよ」
「……」
真っ直ぐにぶつかってきたその問いに、息がくっと詰まるような思いだった。