ディープ・アフェクション
好きだとか、恋だとか、そんなもの私にはよく分からない。
物心つく頃には周りの女子たちがこぞって夢中になっていた“恋”というもの自体が、私には全くと言っていいほど分からなかった。
自分では分からないから、周りの意見を取り入れようと思った。
お試しで付き合ってみれば?と言われて、無下にするよりそうした方がいいんじゃないかと思った。今よりもっと先輩のことを知れば、好きだとか、恋だとか、そういう類のものも分かるんじゃないかと思った。
そうだ。
私は、みんなが普通にできているそれを、分かりたかったんだ。
なのに──……
「……分からない」
結局、今もそれは分からないままだ。
「……」
「…そっか」
なんの答えにもなっていないような言葉を小さく吐き出した私に、皇明は怒るでも呆れるでもなく、ただ私と同じくらいの小さな声を返しただけだった。
皇明の手がゆっくりと離れていく。
その光景を見て、なんとも言えない感情が込み上げてきた。それは言葉でどう表現したらいいのか分からない、複雑な感情だった。
「……」
「…行けば」
無言を更新したのは多分数秒の時間だったと思う。先にそれを破ったのは皇明だった。
短い言葉を放って、クイ、と顎で私の家の方を示す。一度頷いた私はそれに従うため、踵を返した。
皇明はいつも、私が家に入るその瞬間まで見届けてくれる。
“近いからいいよ”って毎回 言っているのに、それでも帰りは必ず送ってくれた。そして今みたいに、私が家の中に足を踏み入れるまで、そこにいる。
手を振るでもない。
笑顔を向けてくれるでもない。
でも絶対、振り返れば、目が合う。
「……」
今日もそれは例外では無かった。
薄暗い中、いつものようにツンとした表情で佇む皇明はじっと此方を見つめていて。
「……ばいばい」
「……ん」
私のちいさな別れの挨拶に、同じようなちいさな声が返ってくる。
暗闇が深くなるこの空間に溶けていくその声を最後に、私は皇明に背を向ける。パタン、とドアが閉じる音が、やけに虚しく聞こえた。
皇明とばいばいするのがこんなにも名残惜しいと思ったのは、この日が初めてだった。