ディープ・アフェクション
◇
「ちょっと、聞いてる?」
突然 鼓膜を突いた声と、肩に加わった衝撃。その2つによってトリップしていた意識がハッと現実に引き戻された。
「……ごめん、聞いてなかった」
馬鹿正直に謝った私に、向かいに座っていた友人はわざとらしくハァーッと溜め息を吐いてから、前のめりになっていた身体を戻して再び椅子に腰を落ち着かせた。
「なんか里茉、最近 変だよ」
「…そうかな?」
「そうでしょ。なんかずっとぼうっとしてるし、前よりあんま笑わなくなった」
「……」
確かに、言われてみればそうかもしれない。
今みたいに意識が現実とは違うところにトリップしてしまう事なんてここ最近はしょっちゅうだし、大口を開けて笑ったのなんて、一体いつが最後なんだろう。もう随分と前のことのように感じた。
痛いところを突かれて口を閉ざすしかなくなってしまった。
「もしかして、中尾先輩が原因?」
いつの間にか下降していた視線の先に転がっていた卵焼きを箸で突いていると、そんな友人の声が降ってきた。
引き寄せられるように顔を上げれば、いつになく真剣な面持ちと対峙して、無意識に喉が上下してしまう。
ゴクリ、生唾を飲み込んだその口で「なんで?」と乾いた声をぶつければ、目の前の友人は手にしていたペットボトルの蓋を閉めながら口を開いた。
「だって里茉が変になったの、中尾先輩と付き合い出してからだし」
「……」
「無理してるんじゃないのかな〜って。まあ一応心配してるのよ、これでも」
まさかそんな風に思ってくれているなんて思いもしなくて、胸の奥がきゅっと締め付けられた。
「里茉って元気だけが取り柄だし」
「だけとか言うな」
「ふふ、嘘嘘」
向かいに座る彼女は茶目っ気たっぷりな笑顔を見せたかと思えば、すぐに困ったように眉を下げた。
「まあ、あれよ。お試しで付き合えば?って言ったのあたしだし、余計なこと言っちゃったかな~と思って」
「え、そんなことないよっ」
「じゃあなんでそんな浮かない顔してんのよ」
慌てて首を横に振った私に、厳しい質問がぶつかってくる。うぅ、と唸るような声を出しそうになるのを寸でのところで抑えて、箸を置いてから口を開いた。
「お試しっていう形でも付き合ってみたら、先輩のことをもっとよく知ったら、好きになれるんじゃないかって、そう思ったの」
「うん」
「好きになろうって、今でもそう思うけど……そう思うこと自体が、もうおかしいのかなって」