僕惚れ②『温泉へ行こう!』
***


 食事を堪能した私たちは、仲良く手を繋いで桜庵(さくらあん)を出る。

 2人で、「美味しかったね」と話しながらエレベーターを待っていると、上がってきた箱の中に正木くんがいた。

 まるで、店外での用事を済ませて帰ってきたばかりな雰囲気の正木くんに、すれ違いざま「頑張ってね」と声をかける。

 さっきまで理人の陰に隠れているので精一杯だったのに、お酒の力って怖い。

 すると、正木くんが「丸山、もう温泉入ったんだね。朝と服、違うよね?」と返してきてびっくりする。

 その言葉に、一気に酔いが()めてしまった。

 慌てて口を開こうとしたけれどうまく言葉が出てこなくて……その間にエレベーターの扉が閉じてしまう。

 と、同時に、理人に後ろからギュッと強く抱きしめられた。
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