ママになっても、極上ドクターから独占愛で迫られています
 辿り着くまでに薄々勘づいてはいたけれど、扉を開けて一歩なかに入った瞬間すべてを悟る。

「ここってスイートルームだよね」

「あの日、連れてきたかった場所でもある」

 別れた日の話だ。レストランで別れ話をしたので宿泊はせず、マンションまで送るという申し出も断ってひとり帰宅したんだっけ。

「ごめん。そうとは知らず、キャンセル料とか……」

「そういう話はいい」

 ピシャリと遮った蒼さんは私の手を引いて奥まで歩みを進め、一面窓の前で立ち止まる。

 部屋の照明はほどよく落とされていて、スタンドライトが白壁に陰影をつけていた。

 十九時半を過ぎた風景はすっかり闇に溶け、明るく灯る街の光はキラキラと輝き、息をするのを忘れるくらい美しい。

 窓際にあるテーブルには、氷で冷やされているシャンパンボトルと籠に入ったフルーツが置いてある。

 スイートルームに泊まるのは初めてなので、目についたものすべてに感嘆の息がこぼれ落ちた。

 違うテーブルには火が灯ったキャンドルと色鮮やかな花束があり、雰囲気のある演出をずっと眺めていられる。

「すごい」

 ドキドキと高揚する胸に手を置いて深呼吸を繰り返す。そうしないと真っ直ぐ立っていられないほど圧倒されていた。
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