腹黒梨園の御曹司は契約結婚の妻を溺愛したい
翌朝。
賄いの残りでそれなりにリッチな朝ごはんを食べつつスマホを見ていると『梨園の御曹司に見染められたシンデレラ』の文字がネットーニュースに上がる。
「ぶっ!!」
もう少しで、ちょっといい玉露を吹き出しそうになった。
「なんじゃあ、こりゃああああ」
「日向子、朝からうるさい」
お酒に強いとはいえ、昨日は早い時間からずっと飲み続けだったお母さんが、珍しくこめかみを抑えながら起きてくる。
「お母さん、これ見て!」
「……なんやの、これ」
私のスマホ画面を見て、お母さんがテレビをつける。朝の情報番組で、私たちが昨日秘密裏に会談したはずの長楽館から出てくる写真が画面に踊っていた。念の為別々にホテルを出たけれど、私とお母さん、鴛桜と左右之助さんがそれぞれ連れ立って出ていくところがしっかり収められている。
『つまり、昨日は両家顔合わせだったようなんですね』
『結婚まで秒読みということでしょうか』
『二大宗家の縁談ともなりますと、結婚式はさぞや豪華に……』
アナウンサーやコメンテーターの話が頭の中をぐるぐると巡り、目眩がしてくる。
「こんな写真……どうやって撮ったんやろ」
「うわああ、こんなことまで出てる」
私のことを調べ上げているのか、学校名や会社名などの具体的な名前は伏せつつも略歴が紹介されている。私は老舗の料亭の娘で梨園のお客様に囲まれて歌舞伎好きに育ち、一般の事業会社で社会勉強をするために働いていたのだそうな。うーん、絶妙に嘘ではない。
「ぎゃー、この前髪ぱっつんのすっぴんドブス写真―!!!」
次に写し出されたのは、高校の卒業アルバムの写真だった。目線は入っているけど、見る人が見れば私だってわかるはずだ。
呆然としていると、スマホにガンガン着信が入ってくる。おびただしい未読メッセージが並び、出るのが怖いくらい電話も鳴っている。何度目かのコールは、会社からのものだった。
「も、もしもし……」
『ああ、よかった。やっと繋がった』
通話口から、ホッとした上司の声が流れてくる。
『和泉さん、しばらく有給を取りなさい』
「どうしてですか?」
『早朝から玄関前に記者が張り込んでいるらしい』
「本当ですか!?」
『警備会社から連絡があった』
既にそんなところまで記者が行っているのかと、次の言葉が出てこない。
『厳重に抗議するけれど、収まるまで出社は控えなさい。仕事はこっちで何とかするから』
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
『和泉さんのせいじゃないから、気にしないで』
スマホの通話を切って、思わずガックリ肩が落ちる。
「マジか」
私個人を特定しようとする動きが出るなんて全くの予想外だった。
左右之助さんってこんなに人気あったんだ。
一応、窓の外を覗いてみるけれど、今のところ人の気配はない。左右之助さんのスマホに、会社の状況を伝えるメッセージを入れておく。実家やアパートを特定されるのも時間の問題かもしれない。
「うう、何でこんなことに」
あの夜、ホテルになんか入らなければ……思い出すと地団駄を踏みたくなる。
メッセージを入れてすぐに、またスマホが着信を知らせてびくりと身体が震えた。
『日向子さん、僕です』
「左右之助さん……」
泣きたいような気持ちが少しだけ救われるような、ますます恨みが募るような複雑な心境に陥った。
これ以上結論を引き伸ばしても、騒ぎが大きくなるだけだ。
賄いの残りでそれなりにリッチな朝ごはんを食べつつスマホを見ていると『梨園の御曹司に見染められたシンデレラ』の文字がネットーニュースに上がる。
「ぶっ!!」
もう少しで、ちょっといい玉露を吹き出しそうになった。
「なんじゃあ、こりゃああああ」
「日向子、朝からうるさい」
お酒に強いとはいえ、昨日は早い時間からずっと飲み続けだったお母さんが、珍しくこめかみを抑えながら起きてくる。
「お母さん、これ見て!」
「……なんやの、これ」
私のスマホ画面を見て、お母さんがテレビをつける。朝の情報番組で、私たちが昨日秘密裏に会談したはずの長楽館から出てくる写真が画面に踊っていた。念の為別々にホテルを出たけれど、私とお母さん、鴛桜と左右之助さんがそれぞれ連れ立って出ていくところがしっかり収められている。
『つまり、昨日は両家顔合わせだったようなんですね』
『結婚まで秒読みということでしょうか』
『二大宗家の縁談ともなりますと、結婚式はさぞや豪華に……』
アナウンサーやコメンテーターの話が頭の中をぐるぐると巡り、目眩がしてくる。
「こんな写真……どうやって撮ったんやろ」
「うわああ、こんなことまで出てる」
私のことを調べ上げているのか、学校名や会社名などの具体的な名前は伏せつつも略歴が紹介されている。私は老舗の料亭の娘で梨園のお客様に囲まれて歌舞伎好きに育ち、一般の事業会社で社会勉強をするために働いていたのだそうな。うーん、絶妙に嘘ではない。
「ぎゃー、この前髪ぱっつんのすっぴんドブス写真―!!!」
次に写し出されたのは、高校の卒業アルバムの写真だった。目線は入っているけど、見る人が見れば私だってわかるはずだ。
呆然としていると、スマホにガンガン着信が入ってくる。おびただしい未読メッセージが並び、出るのが怖いくらい電話も鳴っている。何度目かのコールは、会社からのものだった。
「も、もしもし……」
『ああ、よかった。やっと繋がった』
通話口から、ホッとした上司の声が流れてくる。
『和泉さん、しばらく有給を取りなさい』
「どうしてですか?」
『早朝から玄関前に記者が張り込んでいるらしい』
「本当ですか!?」
『警備会社から連絡があった』
既にそんなところまで記者が行っているのかと、次の言葉が出てこない。
『厳重に抗議するけれど、収まるまで出社は控えなさい。仕事はこっちで何とかするから』
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
『和泉さんのせいじゃないから、気にしないで』
スマホの通話を切って、思わずガックリ肩が落ちる。
「マジか」
私個人を特定しようとする動きが出るなんて全くの予想外だった。
左右之助さんってこんなに人気あったんだ。
一応、窓の外を覗いてみるけれど、今のところ人の気配はない。左右之助さんのスマホに、会社の状況を伝えるメッセージを入れておく。実家やアパートを特定されるのも時間の問題かもしれない。
「うう、何でこんなことに」
あの夜、ホテルになんか入らなければ……思い出すと地団駄を踏みたくなる。
メッセージを入れてすぐに、またスマホが着信を知らせてびくりと身体が震えた。
『日向子さん、僕です』
「左右之助さん……」
泣きたいような気持ちが少しだけ救われるような、ますます恨みが募るような複雑な心境に陥った。
これ以上結論を引き伸ばしても、騒ぎが大きくなるだけだ。