腹黒梨園の御曹司は契約結婚の妻を溺愛したい
その日の午前中、ワイドショーやらニュース番組やら流れてくる自分の報道に、ついに腹を括った。
「お母さん、私……左右之助さんと結婚するよ」
「本当にいいの?」
「そもそもホテルに行ったのは自分の意思だから」
酔っ払っていたとはいえ、彼と一夜を共にしたのは私が合意したこと。私がいいと思ったからそうなったことだ。
「これで破談なんてあちこちに迷惑かけるだけだし、自分がしたことのケジメは自分でつける」
「分かった、お母さんも腹括るわ」

そこから鴛桜と左右之助さんの動きは早かった。
私が決断を下したらどういう段取りにするか、既に準備していたとしか思えない迅速さだ。
南座の舞台を利用して、午後に記者会見が開かれることになった。報道各社にF A Xやメールが送られ、驚くほど多くのマスコミが集まる。対応したのは鴛桜と左右之助さんだ。
私は一般人ということで会見に同席することはなかったけど、控室のモニターでお母さんと様子を見学することになった。お母さんは見学というより、監視かもしれないけど。

「隠し子というのは誤解です」
集まった記者やカメラマンを前に、鴛桜は滔々と説明を始める。
「私どもの母が亡くなった後、桜左衛門はある女性とお付き合いしていました。産まれたのが左右之助の婚約者です。柏屋も端から承知の上です」
「本当に奥様が亡くなった後のことだったんですかぁ?」
記者の意地が悪い質問にも、鴛桜は鷹揚に笑って受け流す。
「母が亡くなった年と、左右之助の婚約者の年齢を計算すればすぐに分かることだと思います」
「でも、桜左衛門とその女性は結婚していませんよね?結局のところ、婚外子を隠していたことに変わりないじゃないですか」
記者がさらにマイクを向ける。

「二人は結婚も視野に入れてお付き合いしていましたが、最終的にお相手の女性がお店を経営しており、梨園の妻は務まらないと決断されたのです」
「認知もされていなかったんですよね?」
「それも先方からお断りがありました。結婚しないのであれば、お嬢さんを梨園と無関係なところで育てたいとの意向でした。養育に必要な費用は父からお支払いしていましたし、彼女が物心つくまで頻繁に足を運んでいます」
記者たちの攻勢が、だんだんと静まっていく。

「左右之助と彼女が結婚することになって、こうして私自身が皆さんの前でご説明していることでご理解ください。色々な経緯があって正式な結婚とはなりませんでしたが、彼女はれっきとした柏屋の一員です。隠し子などではありません」
腹立たしく思っているはずなのに、鴛桜はさすが役者だった。堂々と言い切る姿に、記者たちが何も言えなくなる。
れっきとした一員どころか、スキャンダルだ婚外子だ喚いていたのは鴛桜自身のくせに。この場を丸く収めるためとはいえ、よくまあここまでつらつら説明できるもんだ。

でもこの筋書きって、全部左右之助さんが書いたんだよね……

「その後、桜左衛門とお相手の女性はどなたとも結婚しておりませんからね。どれほど真剣だったのか、それで察していただければと存じます」
「左右之助さんは婚約者の方とどこで出逢われたんですか」
鴛桜にこれ以上聞いても面白い話は出てこないとばかりに、矛先が左右之助さんに移る。
「彼女のお母さんのお店です」
これも左右之助さんが用意した説明だった。
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