【6/15番外編追加】一夜の恋じゃ終われない 〜冷徹ホテル王の甘い執着〜
そんな生活が変わったのは俺が小5になる直前、まだ肌寒さを感じる季節の変わり目の時期だった。
病院を受診してきたという母が、『胸にシコリができたから手術することになった。簡単な手術だから大丈夫』と俺に告げた。
そのとき母の言葉を馬鹿正直に信じていた俺は気づいていなかったのだが、そのときにはかなり病気が進行していて完治が難しい状態になっていたらしい。
手術後も母は徐々に痩せていき、入退院を繰り返すようになっていく。
それと同時に、母は俺の父親のことをよく話すようになっていた。
『あなたの口元はパパに似てるわね。褒められると皮肉げに唇の端を上げるのよ。素直に喜べばいいのに照れ屋さんなのよね』
『ニューヨークのグランドセントラル駅は芸術的に美しいの。メインコンコースの時計台の下がパパとの待ち合わせ場所だったのよ』
今思えば母は自分が生きているうちに父親のことを伝えておこうと思っていたのかもしれない。
二つ布団を並べた畳の部屋で、寝入りばなに夢見るように語りだす。そしてそれが終わると海外の絵本を読み聞かせてくれて、最後は背中をトントンと優しく叩きながら英語の子守唄を口ずさむ。