【6/15番外編追加】一夜の恋じゃ終われない 〜冷徹ホテル王の甘い執着〜
『はじめまして、久遠千春です』
はじめて見る久遠夫人は目が細くてスッとした印象の人で、俺に向かって『これからは私があなたの母親です』と告げた。
次々と運ばれてくる料理は俺が見慣れないものばかりで、カトラリーもナプキンの使い方も知らなかった俺はオロオロするしかなくて。
そのたびに秘書の男性が使い方を教えてくれたのだが、そのとき何を食べたのかまったく覚えていない。
ただ唯一、それを見ていた久遠夫人が『まずはテーブルマナーを覚えてもらわないと』と呟いたことだけは記憶に残っている。
それから『慣らし』とのことで家に遊びに来るよう言われ、久遠家の車で週末だけ通うことになった。
そこには大きなベッドや勉強机のある俺用の部屋が用意されており、ブランドものの洋服にパジャマや下着、洗面道具まで揃っていた。
そこで家政婦に家の中を案内されたりこれから通う学校の見学に連れて行かれたりという期間を経て、俺は正式に久遠家に移ることとなる。
涙を流して手を振る祖母に『お世話になりました』と頭を下げて、母との思い出の場所に別れを告げた。
3月中旬の春。その日から俺は『久遠臣海』になった。
小学校6年生に上がる直前だったから、あと1年遅ければ小学校の友達と一緒に卒業できたのに……なんて考えていたのを覚えている。