【2/4 番外編追加】一夜の恋じゃ終われない 〜冷徹ホテル王の甘い執着〜
私に気づいた臣海さんはビルの壁から背を離し、身体の横で小さく手を上げ目を細めた。
黒のテーラードジャケットにセットアップのパンツ。サックスブルーの開襟シャツが上品かつ爽やかで、クールな雰囲気の彼にとても似合っている。
そうか、黒かブルーの服で来るよう言われたのは、コーディネートを合わせるためだったんだ。
――よかった、黒の膝丈ワンピとライトブルーのジャケットで正解だった!
「待たせてごめんね。臣海さんがこんなに早く来てると思わなくて……」
「いや、俺がマンションでジッとしていられなかっただけだ。それに待たされるのも案外楽しいものだと分かったし……」
ホッとしたところで、私の格好を上から下まで目で追った臣海さんが口を開く。
「菜月……美人だな。キスしていいか?」
「へっ!?」
公衆の面前でいきなり恥ずかしいセリフを吐かないでほしい。
周囲の人々が「えっ」という顔で一斉にこちらを見て、クスクス笑ったり指差したりしている。
「おっ、臣海さん、早くここを離れましょ!」
「いや、今からここに入るんだが」
「へっ!?」
せっかくのデートに変な声しか出していない私の手を握り、彼は「まずはここでランチだから」と微笑んだ。