【6/15番外編追加】一夜の恋じゃ終われない 〜冷徹ホテル王の甘い執着〜
 菜月との結婚、出産を期に久遠の両親とも交流を持ち始めたものの、俺は未だにあの夫婦と話すのは緊張するし、心から打ち解けているとは言い難い。きっと向こうも同じように感じていることだろう。

 実際、菜月や美月がいなければ場がもたないし、父と二人で話すのも職場のみだ。
 
 ――よし、勇気を出すか。

 俺は覚悟を決めると、大きく深呼吸してから口をひらいた。

「……美月を連れて行くか」
「えっ!?」
「あの二人にとっては孫と過ごす時間が一番のプレゼントだと思う」

 使い切れないほどの資産を持っている彼らにとって、どんな高価な品物を贈られても大して意味を持たない。
 車でも洋服でもアクセサリーでも、欲しいと思えばいくらだって最高級の品が買えてしまうからだ。

 あの二人が何よりも欲していて、そして唯一持つことができなかったもの。それは……。

 ――自分たちの子供だ。

 俺の父はともかくとして、千春さんは血を分けた子を産むことができなかった。そればかりか、夫が他の女とのあいだに儲けていた息子を引き取るという屈辱を受けている。

 しかも生まれたての純真無垢な赤ん坊ならともかく、俺が十一歳の可愛げのないガキだったから、余計にガッカリしたことだろう。

 そんな二人は今、孫の美月を溺愛している。
 何かとプレゼントを贈ってくるし、会えば夫婦で競うように構いたがる。
 あの頃したくてもできなかった子育てを、孫の世話で追体験しているのかもしれない。

 俺はそんな彼らを微笑ましく思いつつも、屈託なく二人に抱かれて甘えている美月を見ていると、複雑な心境になることがある。
 俺はあの人たちを喜ばせることができなかったから。

 それでもこうして孫に会わせてあげられている。俺でも親孝行ができているのだ……と、自分の中でどうにか折り合いをつけてきたのだが……。

 ――()()()()動かなくて、何が親孝行だ!
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