【6/15番外編追加】一夜の恋じゃ終われない 〜冷徹ホテル王の甘い執着〜

 ――まあ、あれは目の錯覚だったに違いないけれど。

 苦笑しつつそんなことを考えていると、こちらを向いた臣海さんと目が合いドキリとする。
 彼はワインを揺らしながら、ずいっと顔を近づけてきた。

「菜月がのぞむなら、いくらでも抱いてやるけど?」
「ちっ、ちが〜う! のぞんでないし、あなたが(すが)るような目で頼んできたから、仕方なくここに残ってるだけだし」

 その途端、なぜか臣海さんの表情が(かげ)る。
 彼は残りのワインを一気にあおると、グラスを置いて立ち上がった。

「……寝る」
「えっ、まだ7時半前だし、それに夕食は?」
「食べたいなら勝手にしろ。そこにメニューがあるから好きなだけ頼めばいい。俺はいらな……クシュン!」

 臣海さんが大きく肩を揺らしてクシャミした。
 そういえば彼の髪は、私を出迎えた時から半乾きのままだ。

「ちょっと臣海さん、そのままで寝たら風邪をひく!」
「俺は風邪などひかん。放ってお……っ、ハクション!」
「ほら、子供みたいなこと言ってないでちゃんと乾かさないと。ドライヤーは洗面台?」

 渋る彼の肩を押さえてもう一度ソファーに座らせると、私はパウダールームからドライヤーを取ってきて彼の後方に陣取った。
 背もたれ越しにドライヤーをかざしながら、彼のアッシュブラウンの髪にそっと触れる。

 温風に吹かれてサラサラと舞い上がるそれは、思っていたよりも細くて柔らかい。
 指の間をくすぐるような感覚にうっとりしつつ、私はのんびりと話しかけた。

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