冷徹弁護士、パパになる~別れたはずが、極上愛で娶られました~
「そうだ、大切なことを忘れていたが、連絡先を」
「あ、すみません! ええと……」
私は口頭でスマホの電話番号を伝える。別れた当時、彼の連絡先だけを一方的にブロックして連絡を絶ったので、私の番号は変わっていない。
至さんがそれに気づいているかわからないが、私はひとりで少し気まずかった。
彼も名刺をくれたけれど、勤務先も連絡先もあの頃と変わっていなかった。スマホの中からはとっくに消したはずのその情報を記憶している自分に、ちょっと呆れる。
「じゃ、また連絡する」
「はい。ありがとうございます」
玄関先で彼を見送っていると、こちらに背を向けて数歩進んでいた彼が、いったん立ち止まって振り向く。
「……そういえば、成優ちゃんだけど」
「えっ?」
ドクンと、脈が大きく跳ねる。もしかして、なにか勘付いた?
「……いや、なんでもない。また遊ぼうって言っておいて」
至さんは小さく首を振り、それだけ言い残して帰っていった。
安堵の息をついて家の中に戻る。成優はDVDを見ているうちに寝てしまったらしく、畳の上で寝息を立てていた。
そっとタオルケットを掛けて、私もその隣にごろんと横になる。さっきまで同じ家の中に至さんがいたのが夢だったかのような、いつもの我が家の光景だ。
しかし、気を抜いて目を閉じた瞬間、鼻先をほろ苦いライムの香りがかすめる。
やっぱり、夢じゃなかった……。そう実感すると、私の胸はギュッと締めつけられた。