冷徹弁護士、パパになる~別れたはずが、極上愛で娶られました~

 今夜は、一緒に暮らす前の予行演習のつもりでこの部屋に泊まることになっている。慣れない環境が成優のストレスにならないか心配だったけれど、このぶんなら大丈夫そうだ。

「ママみて! せんめんじょ、ふたつある!」
「本当、すごいねえ」

 小さなアパートの我が家とは違い広々とした高級マンションなので、成優はどの部屋を見ても大興奮だった。

 私も大げさに驚いて見せたが、彼は私と付き合っていた頃から引っ越していないので、どのインテリアも初見ではない。

 成優が感激した洗面所のダブルシンクも、この部屋に泊まった翌朝、至さんと横に並んでよく歯磨きをしたものだ。

「芽衣は懐かしいんじゃないか?」

 洗面所の入り口にいた至さんは、私が過去を思い出しているのを見透かしていたらしい。悪戯っぽい笑みを浮かべながらそう言って、探るように私を見る。

「べ、別に……」
「ふうん。ここで愛し合ったたこともあったような気がするけどな」

 成優に聞こえないよう、私の耳元でそっと囁く至さん。途端にかぁっと頬が熱くなり、その時の光景が自然と頭に浮かぶ。

< 156 / 223 >

この作品をシェア

pagetop