記憶喪失の妻は一途な夫(外科医)に溺愛される

「あぁ。でも今の桐乃には少ししんどいから、ミュージカルは今度にしよう。タイムズスクエアも、歩いてなんぼだけどかなり混んでるからさ。美術館は？」
「行ってみたい。それからおいしいもの食べたい！」
「初めての場所がいい？それとも、前に桐乃が行っておいしかったって言ってた場所がいい？」
彼は最近躊躇なくきいてくれるようになった。遠慮せずに話してくれるのが、私には心地よい。

遠慮されているときは、私自身も彼との間に隔たりがあり、なかなか突破できなかった。

でも、彼があえて私に遠慮せず、思いを躊躇せず話してくれるようになって、私は隔たりがほとんどなくなったように感じている。

「行ったことの無い場所がいいかな。」
「了解」
これは自分でも理解できない感情だけれど、記憶のある頃の自分にまるで嫉妬しているかのような感覚を覚える時がある。
今もそう。