政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 片倉にも気遣いを見せてくれる浅緋が嬉しい。

 浅緋は裏木戸を開けて、敷地の中に入る。
「慎也さんもこちらへ」
「はい」

 家の中に入るのかと思ったら、浅緋は建物の横を抜けて庭に出た。

 見事に整えられた日本庭園の中に広く取られた場所が月明かりに照らされていた。

 そして、あの桜の木があったのだ。

 時期的に開花にはまだ早いため、桜の花を見ることはできないけれど、とても立派なその木はもう少し暖かくなったら見事な花を咲かせるんだろうと思う。

 広くて緑が綺麗な庭は心がとても落ち着く場所だった。

 以前浅緋の母を訪ねた時に、部屋からも見えたけれど、実際に近くで目にすると、また違う迫力がある。

「これが私が庭師にごねた木です」
 その時のことをこの木を目の前にして想像すると、それはとても微笑ましい光景だった。

 小さな浅緋が、この木を守ろうとしたのだ。
「可愛らしいですね。そんなあなたも見たかったな」

「不思議だわ。あの時はかなり枝を大きく落としたんですけど、こうやって立派に枝をまた広げるのね」
< 149 / 263 >

この作品をシェア

pagetop