政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 そう言って、浅緋はその桜の木を見上げた。

「そんなに切るものなんですか?」
 片倉はマンション住まいなので、庭の事はよく分からないし、ぴんと来ない。

 マンション内にも緑はあるがそこまで意識したことはない。確か散歩できるような道もあったはずなのに。

 マンションの樹木は、多分時期が来ればそれなりに剪定などしてくれているのだろうとは思うけれど、それほどの思い入れはない。

「ええ。そうなんですよ。結構根本からバッサリ。私が見たときは太い枝しか残されていなかったのよ」

「それは……なかなかにショックな光景だな」
「庭師に泣いてしがみつくくらいですから」
 くすくすと浅緋が笑っている。

 ふわりと翻る髪。月の光が浅緋の顔を照らしていた。
 静かなその横顔は儚げなのに、何か芯のようなものを秘めているのを片倉は感じる。

──綺麗だ。
 ただただ、そんな感想しか浮かんでこない。

「片倉さん……」
「はい」

 あんなに心が乱れたなんて嘘のようだ。

 今は静かに浅緋の言葉を待つことができた。

「父の遺書の事は忘れてください」
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