政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 そうして、軽く折り畳んでそれをサイドテーブルに置いた。
 その手が浅緋の髪を撫でる。

「大事にしますから、浅緋が欲しい。ずっとずっと欲しかった」
 その撫でる手が心地良い。

 ふ……と片倉が笑う気配がする。
「不思議だな。あなたが僕に撫でることを許してくれてる」

「だって……、慎也さんですもの」
「浅緋……」

 そんなに甘い声で何度も何度も名前を呼ばれたら、そのまま蕩けてしまいそうだ。

 片倉の腕の中に包まれて、浅緋はとてもドキドキする。仕事から帰ってきた片倉からは自分とは違う香水の香りがするのだ。

 けれど、それはもう浅緋にとって、大好きな香りなのだった。
 むしろ片倉が香水をつけていることが好ましいから、今日も自分も香水をつけることに抵抗がなかったのかもしれない。

 その香りに包まれると安心するように、片倉にも浅緋の香りで安心してほしいと、そんな気持ちもあったのかもしれなかった。

 今はこうしていても安心もしていて、これから起こることに対して緊張もしている。

 浅緋は真っ直ぐに片倉を見つめた。
 優しくて甘やかな表情の片倉が浅緋にそっと顔を近付ける。
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