・LOVER—いつもあなたの腕の中—
　頭を下げたマネージャーさんはレコーダーを巻き戻し事務所的に都合の悪い答えを消去してもらうと、そのままリュウの頭にゲンコツを落とした。


「痛ってぇ」

「リュウ、ファンに向けての回答だと分かっているでしょ？　もっと読者が喜ぶ回答を考えなさい」


　マネージャーさんのひとことで我に返ったのか、ハッと目が覚めたように「そうだった、ごめん」とリュウは肘をつき口元を右手で押さえた。
「質問を変えましょうか？」と気を使ってくれた編集者さんに「いえ、そのままで大丈夫です」と答えたリュウはファンが喜ぶであろう模範回答を口にしたので、マネージャーさんは安堵の表情を浮かべていた。


　質問に対し、当たり障りの無い回答を繰り返すリュウ。そこには今まで私が知らなかった取材の裏側があった。
　今までテレビや雑誌等で目にし耳にしていたインタビューなどの殆どが、あらかじめシナリオがあるかのような筋書きありきの質問と回答であり。事務所的ＮＧに値する回答をした場合は、即刻削除され模範解答にすり替わる。
　そんな場面に初めて立ち会った私としては、リュウの小さな変化さえも気になってしまう。
< 130 / 253 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop