甘い夜の見返りは〜あなたの愛に溺れゆく
追い打ちをかけるように、最近、お父さんは
「結羽は1人娘だから、息子になる人は、私の後継ぎを出来るくらいの人じゃないと困る」
私の夢見る王子様を、勝手に決めつける。
そして、いつも私は、
「自分の結婚相手は、自分で決める」
そう答えていた。
でも、今回はその続きがあって、
「管理部長の木島くんなんだが、結羽と一緒になって、後を継いでもらいたいと思ってるんだ」
お父さんから、突然切り出された言葉に愕然とした。
「お父さん、結婚相手は、自分で決めるって前から言ってるでしょ!」
「結羽が連れて来ても、うちを引き継げるかは分からないだろ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。好きでもない人と結婚なんて嫌よ」
「木島くんはいい奴じゃないか。33歳で誠実だし、あの若さでしっかり管理部長として努めてくれる人財は、そうそういない」
33歳で管理部長。
前管理部長が役員になったから、木島さんが任命された。
それだけの実力も確かにあるし…
それは認めるけど…
「今まで通り、支えてもらったらいいだけじゃない」
「実はな。この間、西条ホールディングスから、傘下に入らないかと、打診があってな。うちもこれからの成長は、厳しい状況だと思っていたところで、受け入れようと思っている」
「だからって、木島さんと結婚しなくても」
「私1人だけでは限界もある。それに若い世代に、引き継ぎしないといけない。私の信念と、佐々倉を大切に思っている、しっかりした跡取りが必要なんだ」
「結婚は別よ!」
「結羽、木島くんと私の会社を継いでくれ。頼む。今度の土曜日に、今後の西条ホールディングスとの話で、木島くんとお昼に食事するから、結羽も一緒に来てくれ」

お父さんが、ずっと悩んで、決断したと言っていたっけ。
今後のことを考え、飲食業、旅行業、アミューズメントやホテル、最近では、フィットネスクラブやファッション関係を手がける、大手総合商社「西条ホールディングス(西条HD)」から打診があり、傘下に入ることになった。
そのことで、最近は、木島さんの仕事を少し手伝うことも増えてきた。
木島さんは、佐々倉の経営を支え、従業員からも信頼が厚い。
物腰柔らかく、黙々と仕事をして、真面目で、俗に言ういい人だ。
木島さんに好意を持つ女性社員もいる。
でも私は、お父さんの会社で見かけていた、お兄さん的な存在にしか思えない。
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