僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
 時計を見ると20時を過ぎていて。

 真咲(まさき)はあまり遅くまでは付き合えないと言っていたけれど、「遅く」って何時くらいのことだろう?とふと考える。

 葵咲(きさき)ちゃんが家で待っていると仮定して「この時間までには」を思い描くと、僕の中のタイミリミットは21時だ。だけど……僕は自分のこの基準が正しいとは思っていないんだよね、実際のところ。
 葵咲ちゃんが絡むと色々ズレてしまうの、一応自覚はしているつもりなんだ。

「ねぇ、真咲。今日って何時までOK?」
 こういう時って変に思い悩むより、本人に直接聞くほうがいい。
 そう思って、僕は手にしたビールをグイッと一気に煽ると、グラスをドンっとテーブルに置いて真咲を見つめた。

「うーん、特に決めてないけど……強いて言うなら今日中に家に着くくらいかな」
 真咲が答えてくれたのへ、僕は思わず「そんなに遅くまでいいの!?」と聞いてしまった。

 夜なんてある意味夫婦の仲良しのための時間だと思うのに。そんな貴重な時間帯に、長いこと奥さんと離れていて平気とか、どんだけ聖人君子なんだよ、真咲!と心の中で突っ込まずにはいられない。

「池本がまだ飲みたいって言うなら、付き合うよ。もういいって言うなら帰る」

 しれっと言われて、僕は慌てて「いや、全然よくないっ! 真咲の奥さんさえ許してくれるなら朝まで付き合ってもらいたいぐらいなのに!」と力説する。

 心の中で真咲の奥さんにごめんなさい、と思いながらも、それでもまだ一緒にいてもらえるならそれはとても有難いとも思ってしまうんだ。
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