僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
***

理人(りひと)ぉ、ごめんなさい」

 家に帰ると、甘ったるい匂いに包まれて、僕はおや?と思う。

「ば、バレンタインデーのチョコ、理人が留守の間に作っちゃおうと思ったら……」

 セレが飛びついてきて、溶かしたチョコをボールごとひっくり返してしまったらしい。

 今まさにひっくり返したばかりなのか、あちこちにチョコレートをくっつけた葵咲(きさき)ちゃんを見て、僕は思わず口の端が緩む。


「葵咲、チョコレートまみれだね」

 言って、吸い寄せられるように甘い頬に舌を這わせた。

「んっ、……理人、くすぐったい」


 頬、指先、首筋……。

 あちこちに飛び散ったチョコレートを、丁寧に丁寧に舐めとっていけば、段々葵咲ちゃんの声が熱を帯びてきて。

「あ、ダメっ、ん……っ、」

 こんな声の時、葵咲ちゃんの「ダメ」は「良い」の裏返し。


 そう判断した僕は、彼女のエプロンについたチョコレートを指先に絡めて、葵咲ちゃんの薄く開いた唇に割り入れるようにして塗りこめる。

 そうしてそれを舐めとるみたいに深い口付けを落とした。
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