僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
葵咲(きさき)、いま平気?』

 通話ボタンを押して「もしもし?」と応答すると同時に、気持ち鼻にかかったような理人(りひと)の声。

 何となく背後が騒がしい気がして……もしかして外かな?と思う。

「ん、平気よ?」
 そう答えると、途端ふにゃりと情けない声が通話口から聞こえてくる。

『葵咲()()()、どうしよう。僕、寂し過ぎて、今夜は家に帰りたくないよぉー』

 久々に理人に“葵咲ちゃん”って呼ばれた。

 昔はずっとそう呼んでくれていた彼だけど、ある日を境に徹底して私を呼び捨てするようになった。
 自分を“男として見てほしい”って言ってきた時、理人のなかで色々葛藤があったんだろうな、って今なら分かる。
 彼が私を呼び捨てすることに、何となく理人なりの意地や背伸びみたいなものを感じていた私は、甘えたような声音で「葵咲ちゃん」と呼ばれたことに思わず口元がほころんでしまう。

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