僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
 可愛い。
 今の理人はきっとすごく無防備だ。

 でも、そこまで考えてふと不安になる。そんな状態の理人が、この時間に家に帰らず外にいるって……一体どこに?
 っていうか誰と?
 声が鼻にかかって聞こえるのは……お酒を飲んだ時の理人の特徴だ、とふと思い出して、私はにわかに不安になった。

理人(りひと)、今、どこ?」
 思わず詰問《きつもん》口調になってしまって、反省する。
 深呼吸をしてから「誰かと飲んでるの?」って、なるべく穏やかな声音で聞いてみた。

『うん。真咲(まさき)と。ほら、前に話した和菓子屋の店主の』

 理人の答えを聞いて、あ、そういえばこっちへ来ることが決まった時に、私がお友達と飲んだら?って言ったんだった、と思い出す。
 でもまさか私が出立(しゅったつ)したその日の夜に、とは思わなかった。

『葵咲ちゃんがいなくなった途端、寂しくて……。気がついたら真咲んところに来ちゃってた』

 ぐすぐすと鼻をすするような音がして……まさか泣いてる?とびっくりしてしまう。

 理人、泣き上戸(じょうご)だったっけ?

 家で一緒にお酒を飲むことはあったけれど、こんな酔い方をした理人を、私は知らない。

 どちらかというと飲んでも全然変わらない印象で……逆に私が酔わされてあれこれされる方だったんだけどな。

 ふとそんなことを考えて、何思い出してるのっ!って恥ずかしくなる。

 と、まるでそれを見透かしたみたいに理人が声の調子を低くして言ってきた。
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