僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
 理人(りひと)……。
 諦めてなかったのね。

 理人が、出発の直前まで空港でごねていたのは今朝のことなのに、なんだか数日前みたいに感じてしまう。
 私、こっちにきてからひおちゃんと塚田さんのやりとりを見て、あてられちゃったのかな。
 すごく理人のことが恋しくて堪らなくなってしまってる。

 いつもなら、一緒に家でソファに座って()()()()している時間だからかな。
 そばに彼の温もりがないことが、こんなにも不安に感じてしまうなんて。

「……理人、お仕事は?」
 それでも意地っ張りな私は、何となく「いいよ」って即答ができなくて、回りくどい言い方をしてしまった。

『有給使うから平気だよ。僕がいないと回らない時期でもないし。……ただ、バイトの子に色々指示を出してからになるから、こっちを出られるのは早くても昼過ぎになるかな。多分……そっちに着けるのは夕方とか夜になると思うんだけど』

 私が仕事のことを聞いたことで、もう一押しって思ったんだろうな。
 理人の声が、少し弾んだのが分かって、私は照れてしまう。
 ハッキリと意思表示されたわけじゃなくても、彼の発するほんの少しの声の変化で、理人の感情の機微が手に取るように分かってしまう。いつの間に私、こんなに理人マニアになってしまったんだろう。何か恥ずかしいっ。
 私でさえこうなのだから、理人のほうは言うまでもないんだろうな。
 そう思い至ったら、「いいよ」って言わなくても「来て欲しい」と思っている気持ちを見透かされている気がして、途端に恥ずかしくなった。

葵咲(きさき)、照れてる?』

 ちょっと前まで葵咲()()()とデレデレだった理人なのに、こっちに来たいと切り出した時から、キリッとした声音でいつも通り()()って呼ぶようになっていた。

 何て言うか、理人のこういうところ、ズルイと思うの。

 私は結局カレが本気になったら逆らえないの、分かってる気がするんだもん。
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