僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
 キスをしながらあごに添えていた手をそっと首筋に沿って滑らせ、鎖骨をなぞるように何度か指先を往復させる。そうしてそのまま柔らかな胸の膨らみへ。
 葵咲(きさき)ちゃんの(まろ)く、ふくよかな乳房を手のひら全体で包み込むようにして優しく揉んだら、
「や……ぁん、っ」
 葵咲ちゃんが眉根を寄せて、顔を背けるようにして唇を離した。

「ヤ、()、人《ひと》っ……。これ以上は……ダメっ」
 熱に浮かされて潤んだ瞳で、一生懸命僕にストップをかける。
 葵咲ちゃんの唇、2人の唾液で濡れ光っているのがすごく(なま)めかしい。

 ああ、本当、その顔で「待て」とか……拷問に近いんだけど。

 でも、さすがに僕だってここでこれ以上のことをするのは良くないって分かってるよ。
 人気はないように見えるけれど、どこで誰が見ているか分からないこの状況で葵咲ちゃんの肌をさらすとか、有り得ないから。

 いつだったか山の中で彼女を半裸にしておいて言うのも何だけど、さすがにあの時より今の僕は冷静だ。

「分かった……」
 吐息にのせて熱を霧散させるようにそう告げると、僕は葵咲ちゃんから離れた。

「続きは……会食の後で――」

 話も聞かないといけないのに、待てるだろうか。
 話しながらするとかは無理だろうし。

 考えてもなるようにしかならないことなのに、僕の頭の中はそれらをどう効率的に処理すべきか、でフル回転だ。

 ぐるぐる思いを巡らせながら運転席に乗り込むと、
「じゃ、行こうか」
 ほぉっともう一度大きく溜め息をこぼして、努めて冷静な振りをしてエンジンをかける。

 葵咲ちゃんも、まだ熱が冷め切らないんだろう。

 髪の毛から覗く、可愛らしい耳朶(みみたぶ)がほんのり紅く染まっているのがとても扇情的だな、と思った。

 ――ああ、僕は今すぐにでもキミを、抱きたくて堪らないんだけど!
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