僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
「ほら、私がいない間に理人(りひと)も……えっと……。そうだ! お友達と飲みに出たり……そういうの、してみたらどうかな?」

 言うと、理人が「友達……」とつぶやいて。

「そうそう」
 畳み掛けるように言ったら、「そういえば大学時代の同期が結構近くに住んでたんだよね」と言った。

 長いこと連絡を取っていなかったらしいんだけど、先日たまたま入った和菓子屋さんで、在学中に割と懇意(こんい)にしていた友人の立花(たちばな)真咲(まさき)さんと再会したらしくて。

「立花さんって……女性?」
 真咲さんという名前が中性的に感じられたのと、和菓子屋さんで、というところがふと気になって、思わずそう尋ねたら、ニヤリとされた。

「真咲と葵咲(きさき)。何となく名前が似てるよね。真咲ちゃん、すごく綺麗な女性だよって言ったら、葵咲、ヤキモチ妬いてくれる?」

 嬉しそうに理人が言うのへ、何となく悔しくなってしまう。

 理人が言う通り、女性だったら絶対に嫌だって思ってしまった。会いに行って欲しくない。

「理人……、やっぱりっ!」

 私が不在中にお友達と会うのはやめて?って言いそうになったところで、
「大丈夫だよ。真咲は男だから」
 理人がそう言って、不安に押しつぶされそうな私をギュッと抱きしめてくれた。私は思わず「本当?」とつぶやいてしまって、慌てて口を押さえる。……ヤダ、さっきから私、恥ずかしいっ。

「うん。真咲はれっきとした男で、和菓子屋の店主だ。なんなら今度一緒にお店に行こうか? 本人に直接会えば安心できるよね?」

 僕も真咲に僕の彼女(キミのこと)を自慢したいし――。
 そんなことを呟く理人を見て、心が少しずつ穏やかになってくる。
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